中小企業でもM&Aは当たり前に―人手不足が促す企業統合の波
Akira Kitagawa
日本の中小企業は今、深刻な「人手不足」に直面しています。とりわけ製造業、建設業、運送業、小売・サービス業では、新卒採用どころかアルバイトの確保すら難しい状況です。少子高齢化は待ったなしで進み、これから先、労働力人口の減少が経営存続の最大リスクとなっていくのは明白です。
こうした中で今、中小企業同士による“企業統合”＝M&Aが静かに広がり始めています。「人が採れないなら、会社ごと仲間にする」という発想が、かつての“大企業の戦略”から“中小企業の生存戦略”へと変わりつつあるのです。
【背景】中小企業における人手不足の実態
中小企業庁の2024年調査によれば、従業員数50人未満の企業のうち、約74％が「慢性的な人手不足」と回答。とくに以下の特徴が見られます：
- 若手の応募がほぼゼロ
- 既存社員の高齢化と退職リスク
- 外国人材の確保も困難化（円安の影響）
このままでは、事業拡大どころか「現状維持すら難しい」状況に陥る企業が続出すると予測されます。
【M&Aという選択肢】“人を採る”から“組織を引き継ぐ”へ
これまでの事業承継型M&Aとは異なり、近年は「人手を確保するためのM&A」が増加傾向にあります。
✅ 目的別のM&A活用例：
- 営業スタッフを抱える競合企業を買収 → 営業網の即時強化
- 人材育成が進んでいる協力会社を子会社化 → 技術継承
- 外国人技能実習生の受入枠を持つ会社をM&A → 人材基盤確保
【成功事例】東京都・内装業のM&A事例（2023年）
都内で施工管理を行っていたA社（社員数8名）は、慢性的な職人不足に悩んでいました。そこで、地方で20名の熟練職人を抱えるB社を買収。結果として：
- A社の技術力と施工キャパシティが倍増
- B社の人員に東京の仕事を安定供給できる体制を確立
- 両社のノウハウ共有により生産性が約25％改善
このように、M&Aは「人手不足＝機会損失」の解決策としても極めて有効です。
【M&Aを活用するメリット】
1. 即戦力人材とノウハウの獲得
採用・教育に時間をかけず、既に育った人材を組織ごと獲得できます。
2. 取引先や設備を含めた統合シナジー
顧客基盤・設備・拠点など、単なる人材以上の経営資源を確保可能です。
3. スケールメリットによるコスト削減
統合により、仕入れ・物流・管理コストが効率化され、利益率が改善されることもあります。
【M&Aを検討する上での注意点】
一方で、統合にはリスクも伴います。以下の点に注意が必要です。
- 組織文化や働き方の違いによる摩擦
- 引き継ぎ人材の離職（リテンション対策が必要）
- 財務・法務デューデリジェンスの実施
特に、「人が欲しいから即買う」ではなく、統合後の現場体制・教育制度・人事制度まで設計することが重要です。
【今後の展望】“人手不足倒産”を避けるために
帝国データバンクによると、「人手不足倒産」は2024年に過去最多を記録。今後もその流れは加速する見通しです。中小企業にとっても、もはやM&Aは「特別な戦略」ではなく、「普通の選択肢」と言える時代に入っています。
とくに：
- 後継者不在
- 採用がうまくいかない
- 顧客からの受注が増えているが人が足りない
こうした状況にある企業は、早めにM&A戦略を視野に入れるべきタイミングです。
まとめ｜“人”が取れない時代の現実的な解決策
「人が足りないから成長できない」
「現場を任せられる人がいない」
こうした悩みを根本的に解決するのが、人材・機能をまるごと引き継ぐM&Aです。
中小企業にとって、以下の3つがポイントです：
- 人手不足を“攻めのM&A”で克服する視点を持つ
- 買収対象は“人材の質”や“定着率”も重視する（買収前の人材デューディリジェンスを実施）
- PMI（統合後の運営）を見据えて準備を進める
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