中小企業M&A仲介の急成長 ― 日本M&Aセンターの決算から読み解く“案件量×案件単価”の上昇要因

はじめに
近年、日本の中小企業M&A市場では「案件量(取引件数)」と「案件単価」の両面での上昇傾向が注目されています。特に、日本M&Aセンター(東証プライム上場、証券コード2127)が最新の決算で示した業績から、市場構造の変化や仲介ビジネスモデルの進化が鮮明になってきました。本記事では、
- 日本M&Aセンターの決算から得られる具体的データ
- 案件数・単価上昇の背景にある戦略・環境要因
- 今後のリスク・注意点
を整理した上で、中小企業経営者・M&Aアドバイザー・投資家にとっての示唆を提示します。
1. 日本M&Aセンターの最新決算ハイライト
(データは直近の統合報告書・IR資料より)
指標 | 数値 / 傾向 |
---|---|
売上高(連結) | 約 441.36 億円(2023年度) Nihon M&A Center |
経常利益 | 約 165.18 億円 Nihon M&A Center |
成約件数 | 約 863件(2024年3月期) M&A情報ならMANDA+1 |
利益率の回復 | 営業利益率・純利益率ともに改善傾向にあると報告されている。 M&A情報ならMANDA+2Nihon M&A Center+2 |
さらに、統合報告書では「案件単価」の上昇要因として、受託案件のうちミッドキャップ案件(売上規模や利益規模が一定以上の中規模企業案件)が増えていることが明記されています。 M&A情報ならMANDA+2Nihon M&A Center+2
2. 案件量・案件単価が上がっている背景要因
日本M&Aセンターを含む国内仲介業者の決算・業界データから、案件量および単価が上昇している主な要因を次の通り整理できます。
2‐1. 中小企業の後継者問題の深刻化と事業承継型M&Aの増加
- 日本全国で、経営者の高齢化が進んでおり、後継者未定の中小企業が多数存在すること。日本M&Aセンター自身が「後継者不在」の企業ニーズを取り込む体制を強化している。 Nihon M&A Center+1
- 事業承継・引継ぎ支援センターや民間仲介機関を通じたM&A件数が増加しており、取引のボトム(中小/零細企業層)が活性化していること。 Chusho+2tsunagari-syoukei.com+2
これにより、案件量そのものが拡大しており、過去にはM&Aを検討しなかった規模の会社でも候補にあがるようになってきています。
2‐2. 大型/ミッドキャップ案件への取り組み強化
- 仲介手数料・報酬モデルにおいて、従来の小規模案件だけでなく、規模の大きい案件(売上10~100億円など)の成約促進を狙う部署の強化。日本M&Aセンターでのミッドキャップ案件の増加が、単価上昇につながっていること。 M&A情報ならMANDA+2Nihon M&A Center+2
- また、紹介ネットワークからの受託案件が増え、それらが比較的収益性の高い案件であるため、全体の平均単価引き上げに寄与。 Nihon M&A Center
2‐3. DX化・AIマッチング等による業務効率化
- 日本M&Aセンターは全社で AIマッチングエンジン を導入し、案件のマッチング精度・速度を改善。これにより商談成立までのリードタイム短縮・案件数増加に寄与。 M&A情報ならMANDA
- また仲介業務の中での情報管理、プロセス管理の内製化・デジタル化(案件データベースや仮想データルーム等)の整備がコスト抑制・人的リソースの効率化につながっている。これが利益率を落とさず案件数を増やす基盤。 Nihon M&A Center+1
2‐4. 報酬体系・最低報酬額の見直し
- 最低報酬額(ミニマムフィー)の引き上げや、報酬基準の見直しを行う仲介会社が増えており、結果として案件単価の下限が上がってきている。 電気・電子・機械のM&A - エレクトロニクス分野に強いM&A仲介会社
- 日本M&Aセンターの収益構造でも、「着手金+中間金+成功報酬」モデルに加えて、クラウド型DB等サブスクリプション型収益モデルを取り入れることで、収益の下支えを図っている。これが総収益性の改善につながる。 M&A情報ならMANDA
3. 財務・戦略上のメリットとデメリット
ここまでの上昇トレンドには多くのメリットがありますが、同時にリスク・注意すべき点も存在します。
3‐1. メリット
- 収益の安定化:高単価案件の増加と定額収益モデルの導入により、案件ベースの変動リスクをある程度ヘッジ可能。
- スケールメリットの獲得:案件数が増えると人材投入・システム投資の回収効率が上がる。
- ブランド・ネットワークの強化:成功実績の増加が信頼を醸成し、紹介案件・ミッドキャップ案件がさらに寄せられる好循環。
- 業務効率の向上:DX・AI導入によるプロセス短縮・人的コスト削減などが業績改善を促す。
3‐2. デメリット/リスク・注意点
- 人材育成・定着コスト:大型・ミッドキャップ案件は高度な専門性を要することが多く、アドバイザーのスキル確保が重要。また離職率や教育コストがかさむ可能性。
- 案件の獲得競争激化:他社も同じ方向でミッドキャップ案件を狙うため、競争が激しくなる。単価維持が困難になる場面も想定される。
- コストの膨張リスク:AI・マッチング等の設備投資、人員増加、ネットワーク拡大に伴う維持費・紹介コストなどが予想以上にかかる可能性。
- 市場の不透明性・マクロ経済リスク:景気後退/金利上昇などで買い手資金調達コストが上がったり、売り手の売却意欲が低下したりする。これが案件成立率や単価に影響を与える。
4. 実務的示唆:経営者・アドバイザー・投資家それぞれに
対象 | 注目すべきポイント | 実践施策 |
---|---|---|
経営者(売り手・買い手) | 買い手としての交渉力、アドバイザー選び、準備性 | 売却/買収を考えるなら、ミッドキャップ案件を含む相場を知る。財務・業績データをきちんと整理し、買い手に対して透明性を持たせる。アドバイザーとの報酬契約・スケジュールについても事前に合意しておく。 |
M&Aアドバイザー | 案件ミックスの最適化、効率化、人的ネットワーク強化 | 大型案件に対応できる体制・スキルセットを整備。AI/マッチングツールを導入して営業 / マーケティング力を強化。提携先(地方銀行・会計事務所など)のネットワークを拡げる。 |
投資家・資本の提供者 | リスク管理・収益性の見極め | 仲介会社のビジネスモデル(報酬構造、コスト構造、人員増加計画、AI投資)をよく分析。市場サイクルや景気の影響を想定したシナリオ分析を行う。見通しが甘い案件への過度な期待は避ける。 |
5. 今後の展望と注目すべきポイント
- 最低報酬額や契約条件の透明化:中小企業庁等による規制・自主ルール整備が進んでおり、報酬・手数料の公表義務化などが影響を与える可能性。 Chusho+1
- 成約期間の維持・短縮:現在6~7か月程度での成約が標準になりつつある。ただし、大型案件ではこれが長期化するリスクもあるため、アドバイザー側のプロセス改善が鍵。 careerladder.jp+1
- 地方・業種特化型の案件の伸び:都市部以外の企業・地方銀行等を含めたネットワークの拡大、地域密着型M&Aの増加。業種では製造業・建設業・士業などの垂直統合や同業統合が引き続き注目。 tsunagari-syoukei.com
- 技術・DXのさらなる活用とデジタルツール:AIマッチング、クラウドDB、仮想データルームなどのツールが、案件獲得・コスト効率・顧客体験の向上で差別化要因になる。
- マクロ環境の影響監視:金利・インフレ・為替などの変動が、買収資金コスト・企業価値見通しに影響を与える。政策や補助金制度など政府の支援策の動きも注視すべき。
結論
日本M&Aセンターの決算データを中心に見ると、「案件量×案件単価」の両立は、戦略的に意図されたものであり、複数の要因が相まって達成されつつあります。中小企業の後継者問題、ミッドキャップ案件の拡大、DX/AIの活用、報酬体系の見直しなどが主なドライバーです。
ただし、この成長にはリスクが伴うことも忘れてはなりません。人材育成やコスト管理、買い手・売り手双方の交渉力の変動、マクロ環境の不確実性などが影を落とす可能性があります。
M&Aを活用する経営者・アドバイザー・投資家としては、これらのトレンドを理解し、自社/案件にあわせた戦略を立てることが重要です。
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