扶養内パートタイマーの負担増？中小企業の雇用戦略を再設計する時
Akira Kitagawa
はじめに
2025年6月現在、日本政府は年金や健康保険の制度見直しを通じて、これまで免除されていた「扶養内パートタイマー」に対する社会保険負担の拡大を検討しています。これは週20時間超勤務者への適用拡大を意味しており、中小企業の雇用戦略に大きな影響を与える可能性があります。
本記事では、この制度改革の背景と影響を整理し、中小企業がどのように対応すべきか、実務的な視点から解説します。また、こうした制度変化がM&A戦略にもたらす影響についても考察します。
背景：労働力不足と税・社会保障制度のミスマッチ
日本では慢性的な労働力不足が続いており、特に小売業やサービス業などでは即戦力となるパートタイマーの採用が重要です。一方で、配偶者の扶養に入ることを前提に、年収103万円〜130万円の間で就労時間を調整する働き方が広く浸透してきました。
この結果、労働市場の柔軟性が制限され、女性や高齢者などの潜在労働力が十分に活用されていないという問題が顕在化しています。
政府の見直し案では、週20時間以上勤務するすべての労働者（企業規模問わず）を社会保険の適用対象とする方向が示されており、雇用主側も保険料の半額を負担する必要が生じます。
中小企業への影響：コストと採用の板挟み
この改革により、中小企業は以下のような影響を受ける可能性があります：
- 社会保険料の増加による人件費上昇：従来よりもコストがかかるため、従業員数の抑制やシフト調整を強いられる場面が増える可能性があります。
- 労働供給の減少リスク：保険料負担が発生することを避けるため、労働時間を抑える動きが進むと、慢性的な人手不足に拍車がかかります。
ただし、長期的には待遇改善によって定着率やモチベーションが向上し、採用・教育コストの削減にもつながる可能性があります。
M&A戦略への影響と活用の可能性
このような制度変更は、雇用コストの上昇を通じて経営の効率化を求められる場面が増えるため、中小企業間の再編やM&Aの動きにも影響を与える可能性があります。
1. 人材確保を目的とした買収
人手不足に対応するため、同業他社や近隣地域の店舗などを買収することで、即戦力の従業員を確保する戦略が有効となる場合があります。
2. スケールメリットの追求
複数拠点の統合や管理部門の集約によって、社会保険料負担を吸収できる体制を整えるなど、経営資源の統合による効率化が進めやすくなります。
3. バリュエーションへの影響
労務コストの増加はEBITDAなどの利益指標に影響するため、企業価値の算定やディールストラクチャーの設計に際しては、将来的な制度変更の影響も考慮する必要があります。
中小企業が取るべき対応策
1. 雇用形態・シフトの再設計
パートタイマーの労働時間を週20時間未満に調整するか、逆に週30時間以上の準社員的な位置付けにするなど、制度に応じた雇用形態の多様化が求められます。
2. 業務のデジタル化・自動化による省人化
レジのセルフ化、業務管理のクラウド化など、パートタイマーの業務負荷を軽減し、生産性を上げる仕組みへの投資が効果的です。
3. 人材定着を意識した報酬・福利厚生の見直し
社会保険適用を前提とした正社員並みの待遇整備（例：有給休暇の拡充、交通費全額支給など）により、働き手にとって魅力ある職場環境を整えることが重要です。
4. 成長戦略としてのM&Aの検討
雇用問題やコスト増を単体で抱えるのではなく、M&Aを通じて経営規模を拡大し、共通の課題をグループ全体で乗り越えるという視点も、中長期的な戦略として有効です。
おわりに
制度改革は一見すると中小企業にとって逆風に見えるかもしれませんが、中長期的には労働力の安定確保や人材の定着につながる契機となる可能性があります。また、こうした変化は事業再編やM&Aの動きを活発化させる契機にもなり得ます。今こそ、戦略的に雇用制度と経営体制の両面を見直す絶好の機会です。
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