熱中症対策義務化が企業価値に与える影響とM&A勘所

~中小企業が今こそ考えるべき事業継続とバリューアップの視点~

2025年6月1日から、改正労働安全衛生法が施行され、一定の高温環境下(WBGT指数28以上)における熱中症対策が義務化されました。企業は屋外作業だけでなく、工場や倉庫などの屋内作業環境でも具体的な措置が求められることになり、中小企業にも実務面での大きな影響が出始めています。

こうした労務リスクや法令対応が直接企業価値評価(バリュエーション)やM&A交渉に影響を与える時代に突入しています。本記事では、熱中症対策義務化の概要と、それが中小企業のM&Aに与える影響、そして対応の勘所を解説します。


改正労働安全衛生法とは?中小企業も罰則対象に

厚生労働省によると、今回の改正では以下のような義務が課されました(出所:厚生労働省 令和6年6月改正施行要綱):

  • WBGT指数28℃以上の環境での作業に対し、水分・塩分補給、定期的な休憩、冷房設備の設置、緊急時の対応体制を整備することが義務化
  • **違反した場合は罰則(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)**の対象
  • 対象業種には建設業・運送業・製造業・警備業など幅広く含まれる

これまで努力義務にとどまっていた項目が「法的義務」へ格上げされ、特に人的リスクや労務コンプライアンスの観点から、経営課題として無視できない状況になっています。


M&Aにおける企業価値評価への影響

熱中症対策の義務化が、M&Aの場面でどのように影響するのかを整理してみましょう。

1. 【コスト要因の増加】企業価値を下げる要因に

設備投資(空調・冷却装置)、労務体制(監視員・健康管理記録)、休憩スペースの整備など、短期的にはコストが増加します。これらの支出は、EBITDAや営業利益を圧迫し、買収側の評価額を引き下げる要因となることがあります。

2. 【労務コンプライアンス】デューデリジェンスの重要論点に

M&Aにおける法務・労務デューデリジェンスでは、以下の点が重点的に確認されるようになります:

  • 労災リスク(過去の熱中症事故歴)
  • 安全管理体制の整備状況
  • 労働基準監督署からの指導・是正命令の有無

これらに問題があると、買収側がディスカウントを要求したり、案件自体が中止になることもあります。

3. 【逆にチャンスに変える】ESG視点での価値向上

一方で、熱中症対策を積極的に実施している企業は、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応が評価されやすくなるという利点もあります。大手企業や上場企業の子会社化、ファンドの投資先候補となる場合には、「働く環境への配慮」が重要なスクリーニング指標になるため、差別化要素となります。


中小企業が取るべき対応とM&A戦略

1. 【先手の設備投資で企業価値を守る】

投資負担はあるものの、空調設備やWBGTモニタリング体制を早期に導入することで、デューデリジェンス時に「対応済」として加点評価を得ることができます。補助金や助成金の活用も検討すべきです(例:中小企業省「事業再構築補助金」など)。

2. 【熱中症対策未整備の企業を買収し、改善によるバリューアップを狙う】

逆に、対策が遅れている中小企業を買収し、短期間で労務改善を実施することで企業価値を引き上げるという「再生型M&A」も有効です。人手不足や退職リスクが表面化している企業ほど、労務改善のインパクトは大きく、早期に成果が可視化されやすいのが特徴です。


今後の展望と注意点

  • 2025年以降も気温上昇と熱中症リスクは増加傾向にあり、労務安全対応はM&Aにおいても中核的な論点になります。
  • 小規模事業者ほど労務リスクが可視化されておらず、過小評価されている可能性があるため、買収側は注意が必要です。
  • 一方、売却側は環境・労務対策が整備されていることを明示的に開示することで、企業価値を守りやすくなります。

出所一覧(参考)

  • 厚生労働省「職場における熱中症予防対策の義務化について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36976.html
  • 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所「WBGT指数と作業管理に関する基準」
  • 中小企業庁「中小企業の安全対策と支援制度(2024年度版)」

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Akira Kitagawa
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