米関税の波紋とM&A戦略：中小企業が生き残るための選択肢

2025年7月13日 最終更新日時 : 2025年7月13日 Akira KitagawaAkira Kitagawa

2025年7月、米国が一部国に対して新たな追加関税（8月1日発効）を発表しました。これにより日本企業、とりわけ輸出依存度の高い中小製造業には新たな逆風が吹き始めています。

さらに、日銀はこの影響を踏まえ、当面の利上げを見送る方針を固めており、金融環境も不透明感を強めています（出所：Reuters, 2025年7月9日付）。

こうした外的ショックに備えるため、経営の舵取りとしてM&A（企業の合併・買収）を戦略的に活用する動きが中小企業の間でも注目されています。本記事では、関税リスクを踏まえたM&Aの実践的活用法について解説します。

なぜ関税ショックが中小企業に打撃となるのか

今回の関税強化は、主にハイテク製品、精密機器、部品輸出に影響が大きいと見られています。中小企業にとって、以下のような課題が急浮上しています：

  • 価格競争力の喪失：関税上昇により、米国市場における販売価格が上がる
  • 供給網の再構築：調達・製造拠点の見直しが必要
  • キャッシュフローの悪化：在庫負担や販売減による資金繰りリスク

これらの打撃を乗り越えるには、自社単独での対応には限界があり、外部資本・ノウハウを取り込む手段としてのM&Aが現実的な選択肢になります。

中小企業が取り得るM&A戦略とは？

1. 【水平型M&A】同業他社との統合で規模の経済を確保

同業他社とのM&Aにより、調達力の強化・開発費の共同化・販路の統一など、コスト削減と市場競争力の維持が可能です。特に輸出先が重なる企業同士の連携は、米市場への価格調整力を高める施策として有効です。

2. 【垂直型M&A】調達先・販売先の内製化で関税回避

調達先（例：部品メーカー）や販売先（例：現地ディストリビューター）を傘下に取り込むことで、関税のかからないサプライチェーン構築が可能になります。東南アジアやメキシコなど、FTAを活用した生産移管型M&Aも検討すべきでしょう。

3. 【逆発想型M&A】海外企業の買収による現地進出

輸出の代替として、米国や他国の企業を買収することで、関税を回避しつつ現地生産・販売を展開することができます。中小企業にとってはハードルが高いように見えますが、買収価格の下落（為替や景気による）を機会と捉える動きも出始めています。

デューデリジェンスで注意すべきポイント

関税・国際取引を背景とするM&Aでは、以下の論点に特に留意すべきです：

  • 輸出依存度・取引先構成の把握
  • 関税回避スキームの合法性確認（コンプライアンス）
  • サプライチェーンの安定性（BCP評価）
  • 為替リスクのヘッジ体制

M&Aは単なる買収ではなく、戦略的な事業再構築ツールです。短期的な損益だけでなく、中長期の事業シナリオに基づいた検討が重要です。

今後の動向と実務者への提言

  • 米国の通商政策は今後も不安定化が予想され、単独経営ではリスク管理が難しい時代へ突入しています。
  • 一方で、中堅・中小企業のM&Aマーケットは活発化しており、適切なマッチングやバリュエーションが可能な状況です。
  • 自社にとっての「守り」と「攻め」のシナリオを整理し、早期からM&Aの選択肢を具体的に検討することが経営の差となります。

参考出所一覧

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