円安進行で企業戦略はどう変わる?米中関税合意で1ドル=148円台突入、その本質とM&Aへの影響

2025年5月13日、東京外国為替市場で円相場は一時1ドル=148円台前半にまで下落しました。これは、米中両政府が相互に課していた関税を大幅に引き下げることで合意し、投資家心理が「リスクオン」に傾いたことによるドル買いが進行した結果です。

この傾向が継続的なものかは見極めが必要ですが、円安の進行は、輸出企業にとっては恩恵がある一方、輸入企業や海外買収を計画している企業にとってはコスト増を招くリスク要因にもなります。さらに、この為替変動はクロスボーダーM&A戦略にも直接的な影響を与えかねません。

本記事では、「米中関税合意→ドル買い→円安」という一連の市場反応の本質を整理した上で、企業の戦略判断やM&Aに与える具体的影響を3つの視点から解説します。


米中関税合意の概要と市場の反応

2025年5月12日、米国と中国はスイス・ジュネーブでの閣僚級会談において、互いに発動していた高関税を90日間限定で大幅に引き下げることで合意しました。

  • 米国の対中関税:145% → 30%
  • 中国の対米関税:125% → 10%

まだまだ不透明感は残りますが、このニュースは世界経済の先行き不透明感を一時的に和らげ、株式市場は上昇、為替市場ではリスク回避姿勢が後退し、ドルが主要通貨に対して買われました。円は相対的に売られ、一時1ドル=148円台という約1か月ぶりの水準まで下落しました。


円安が企業戦略とM&A市場に与える3つの影響

1. 【輸出企業】価格競争力の強化と資本余力の増加

円安は、特に製造業や電子部品、自動車などの輸出関連企業にとって追い風です。海外売上の円換算額が増加することで利益が押し上げられ、M&Aに必要な自己資金を確保しやすくなります。

例:トヨタやキーエンスなどは円安局面でキャッシュフローが大幅に増加し、過去に大型買収を実施した実績があります。


2. 【買収コスト】クロスボーダーM&Aのハードル上昇

反面、海外企業の買収コストは円安によって割高となり、日本企業にとってはM&Aの実行が慎重になる要因にもなります。買収金額が10億ドルであった場合、円建てではわずか数円の為替差で数十億円単位の資金増が生じる可能性があります。

特に、米ドル建てで買収を検討していた企業は、為替ヘッジの費用や資本効率の見直しが必要になります。


3. 【外資の日本企業買収】日本企業が“割安”に映るリスク

円安が進行することで、海外投資家やPEファンドにとって日本企業は相対的に“安く買える”ターゲットとなります。事実、近年では円安局面を好機と捉えて、米系ファンドが日本企業の株式や子会社の買収を積極化しています。

例:カーライル、ベインキャピタルなどは過去にも円安局面で複数の日本企業を買収してきました。


今後の展望:暫定的な円安か、トレンドの始まりか?

今回の関税合意はあくまで**90日間の「一時的措置」**です。恒久的な合意ではなく、今後の米中協議の結果次第では市場の反応が一転するリスクもあります。また、米国の金利動向やFRBの政策姿勢によっても為替は変動します。

企業はこうした外部環境の変化を注視しながら、為替感応度の高い事業ポートフォリオの再構築や、海外案件に対する為替リスクマネジメント体制の強化が求められます。


結論:為替変動リスクを踏まえたM&A戦略の再設計を

今回の円安進行は、表面的には株価上昇や業績改善といったプラスの側面を見せる一方で、グローバル戦略やM&A判断においては両刃の剣となるリスクも孕んでいます。

経営者・投資担当者としては、こうした為替トレンドをチャンスと捉えるか、リスクとして回避するかを慎重に見極める必要があります。


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Akira Kitagawa
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