日産2万人削減・7工場閉鎖へ:リストラの影に潜む“売れない資産”とM&Aの壁

2025年5月、日産自動車は過去最大規模となる2万人の人員削減と国内外7工場の閉鎖を含む大規模な構造改革案を発表しました。新CEOであるイバン・エスピノーサ氏の下、経営再建に本腰を入れる構えです。
その背景には、過去最大となる6,708億円の最終赤字(2025年3月期)や、EV市場における競争劣位、米中の地政学リスク、急速な為替変動など、複数の要因が重なっています。
一方、リストラによって整理・売却が検討される資産や工場に関して、「思うように売れない」という現実が浮かび上がっています。今回は、この日産の再編をM&Aの観点から分析し、「売却の難しさ」が何を意味するのかを紐解きます。
日産の再編計画:概要と戦略的意図
日産が発表した構造改革には、以下の施策が含まれます:
- 世界で約2万人の人員削減
- 国内外7工場の閉鎖
- 生産拠点を17拠点 → 10拠点へ縮小(2027年まで)
- グローバル販売モデルの統合と地域別ラインアップの見直し
この改革は、資本効率の改善と固定費の圧縮を目指す一方で、工場や事業部門の売却・撤退を進めるという方針も含まれており、M&Aがその手段として検討されていると見られます。
M&Aの壁①:売却対象資産の「事業性・収益性の乏しさ」
日産が売却を模索するのは、赤字事業や稼働率の低い工場が中心です。M&Aにおいて最も重要な観点の一つが「対象事業の将来収益性」ですが、買い手からすれば以下の点が懸念材料となります:
- 現時点での赤字構造
- 老朽化した生産設備
- EVシフトに対応していないライン構成
結果として、買収後の再建にコストがかかりすぎるため、買収希望者が現れにくい状況に陥っています。
M&Aの壁②:外資規制と地政学リスクの高まり
特に海外工場については、買い手として想定されるのはアジア・中東のメーカーやPEファンドなどが選択肢の一つと想定されますが、以下の外部要因が障害となっています
- 米中対立により、中国系企業が欧米資産の買収に慎重
- 輸出制限や技術流出に対する政府規制の強化
- 地域ごとの労働政策・規制による撤退の困難さ
M&Aは法務・税務・地政学的環境すべてが整わなければ成立しません。とりわけ戦略的な事業売却ほど政治の影響を強く受けるのが現代の潮流です。
M&Aの壁③:ブランド毀損リスクと従業員保護のジレンマ
売却に際し、対象となる工場や事業部門に従業員が多数いる場合、労務リスク(雇用維持の交渉)やブランド毀損リスクも懸念されます。
「日産が“売れ残り資産”を手放した」と報道されれば、他事業にも影響を及ぼす可能性があり、慎重な判断が求められています。結果として、「売るに売れない」状態に陥るケースも出てきています。
対策と提言:再編時に必要な“資産価値の再設計”とは?
こうした状況下で有効なのが、部分売却(カーブアウト・資産譲渡)やJV(ジョイントベンチャー)化による段階的な処理です。
戦略的選択肢の例:
- 生産機能のみを譲渡し、ブランドや人員を維持
- 工場敷地を不動産開発事業者へ転売し、事業と分離
- 一部事業をPEファンドと共同で再編する「スポンサー型再生」
これらは時間とノウハウを要しますが、単純売却が難しい場合の有力なオプションとして有効です。
結論:日産の再編劇は、企業再建における「現実の壁」を映し出す
今回の事例は、M&Aが必ずしも“売りたい=売れる”という単純な世界ではないことを如実に示しています。買い手がいなければ、資産は「不良資産化」し、バランスシートに残り続けます。
企業再編の現場では、ファイナンス・法務・戦略が一体となった対応が不可欠です。そしてそれを支えるのは、実務に精通した外部パートナーの存在です。
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